中ぐり盤とは?構造や種類、フライス盤との違いを徹底解説

工場や製造現場で高精度な穴加工を実現する工作機械「中ぐり盤」。すでに開けられた穴を拡大したり、精密な位置に穴を開けたりする際に欠かせない存在です。この記事では、中ぐり盤の基本的な構造や種類、似た工作機械との違いなど、中ぐり盤に関する基礎知識を分かりやすく解説します。

中ぐり盤とは

中ぐり盤とは

ここでは中ぐり盤の基本的な定義や役割について見ていきましょう。なぜ中ぐり盤がものづくりの現場で重要視されているのか、その歴史的背景も含めて理解することで、工作機械としての中ぐり盤の位置づけが明確になります。

定義

中ぐり盤(読み方:なかぐりばん)とは「中ぐり加工」に特化した工作機械です。英語では「boring machine」や「boring mill」とも呼ばれ、精密な穴加工に用いられます。

中ぐり加工とは、ドリルなどであらかじめ穴あけされた被加工材に対して、その穴を内側からさらに削り大きくする加工作業を指します。産業革命の時代から現代まで、精密な機械部品製造に重要な役割を果たしてきました。特に精度の高い穴加工が必要とされる場面では、今でも欠かせない工作機械として活躍しています。

中ぐり盤の発展には、産業革命期の技術革新も関係しており、蒸気機関を改良したジェームズ・ワットの時代から、工作機械の精度向上が進みました。

構造

中ぐり盤の基本構造は、中ぐりバイトやボーリングバーと呼ばれる切削工具を回転させ、被加工物に当てて穴を広げる仕組みです。主軸と呼ばれる部分に切削工具を取り付け、この主軸を回転させながら被加工物に対して送り運動を行い加工を進めます。主軸の向きによって横型と立型に分かれており、加工内容や対象物によって使い分けられています。

フライス盤との違い

フライス盤は被加工物の表面を平らに削ったり溝を切ったりする加工に特化している一方、中ぐり盤は穴の精密な拡大加工に特化しています。中ぐり盤は穴の内径を高精度に仕上げるのが特徴で、フライス盤は表面加工に優れています。

ただし現代では「中ぐりフライス盤」のように、両方の機能を兼ね備えた多機能な工作機械も存在しており、作業内容に応じて選択できます。

マシニングセンタとの違い

マシニングセンタはATC(オートツールチェンジャー)と呼ばれる工具交換装置を搭載しており、人手を介さず複数の加工を連続して行えます。一方、中ぐり盤は中ぐり加工に特化することで高精度な穴加工を実現しています。特に横中ぐり盤はマシニングセンタと比べてテーブルに置ける被加工材の制限が少なく、大型の加工物にも対応できる利点があります。加工精度と加工サイズで比較すると、それぞれに強みがあります。

中ぐり盤の主な種類

中ぐり盤の主な種類

中ぐり盤にはさまざまな種類があります。ここでは主軸の向きや機能によって分類される代表的な中ぐり盤について見ていきましょう。加工対象や求められる精度に応じて、最適な中ぐり盤を選ぶための知識を深めていきます。

横中ぐり盤

横中ぐり盤は主軸が水平方向(横向き)に設置されている中ぐり盤です。主軸が横向きに付いているため、横方向からの加工が可能で、切り屑の排出性に優れています。特に大きな穴や深い穴の加工に適しており、加工時には主軸を動かして作業を行うので、被加工物を動かす必要がなく、大型の加工物も扱いやすいという特徴があります。大型の製缶品や機械部品の加工において、高い精度が求められる穴加工に活躍しています。

立中ぐり盤

立中ぐり盤は主軸が垂直方向(縦向き)に設置されている中ぐり盤です。主軸の重量によるたわみが少ないため、安定した精度で加工を行えるという特徴があります。ただし貫通穴ではない場合、切り屑の排出が課題となることもあります。横中ぐり盤と比較すると設置スペースを節約できる利点もあり、加工物の特性や工場のレイアウトに合わせて選ばれることが多いです。比較的小型の加工物に対する高精度な穴加工に適しています。

NC中ぐり盤

NC中ぐり盤は数値制御装置(NC)を備えた中ぐり盤です。中ぐりや穴あけなどの加工作業をプログラミングに沿って自動で行うため、効率的で正確な作業と省人化を実現できます。NC横中ぐり盤は複雑な形状の加工も高精度で行え、大型の被加工物に対してもミクロン単位の加工が可能です。自動化により作業者の技量に左右されず安定した品質を確保でき、生産性の向上にも貢献しています。

ジグ中ぐり盤

ジグ中ぐり盤は高精度が求められるジグ(治具)の穴あけ用途に使われている中ぐり盤で、ジグボーラーとも呼ばれています。主軸の位置を高精度に位置決めする装置を備え、極めて細かな単位での高精度加工が可能です。

現在では、ジグの加工にとどまらず汎用的に使われ、高精度が要求される精密加工に用いられています。主軸の向きによって立型と横型の2種類があり、加工対象やスペースに応じて選択されます。

中ぐり盤のメリット

中ぐり盤のメリット

中ぐり盤を使用することで得られる利点について見ていきましょう。なぜ現代の製造現場でも中ぐり盤が重宝されているのか、その強みを理解することで、加工方法の選択に役立てられます。

精度の高い加工がしやすい

中ぐり盤は穴の拡大や仕上げ加工において、マシニングセンタよりも高い精度を発揮します。ミクロン単位の高精度な加工が可能なため、精密部品の製造に最適です。特にNC中ぐり盤やジグ中ぐり盤は位置決め精度が高く、複数の穴を正確な位置関係で加工できます。

精密機械部品や航空宇宙関連部品など、高い精度が要求される製品の製造において、中ぐり盤の高精度な加工能力は大きな強みといえます。

深い穴や大きな穴があけやすい

横中ぐり盤は深い穴や直径の大きな穴の加工に特に適しています。主軸が横向きに配置されているため、加工時に発生する切り粉を容易に排出できるという利点があります。これにより、他の工作機械では難しい深穴や大径穴の加工も高精度で行えます。産業機械部品や大型構造物など、大きな穴加工が必要な場面では、横中ぐり盤の性能が特に発揮されます。

中抜き加工がしやすい

中ぐり盤は中抜き加工にも適しています。既存の穴を内側から削り拡げる作業が得意で、他の工作機械では切り粉が溜まりやすく加工が困難な場合でも、中ぐり盤なら効率よく作業できます。特に横中ぐり盤は切り粉の排出性に優れているため、中抜き加工の品質と効率を高めることが可能です。精密な内径加工が必要な機械部品や金型などの製造において、この特性は大きなメリットです。

中ぐり盤のデメリット

中ぐり盤のデメリット

中ぐり盤にも限界や短所があります。ここではどのような場合に中ぐり盤の使用が適さないのか、その制約について見ていきましょう。加工対象や目的に応じた適切な工作機械の選定に役立ててください。

切削や曲げ加工はできない

一般的な中ぐり盤は穴あけ加工に特化しているため、マシニングセンタのように多様な加工には対応していません。平面の切削加工や曲げ加工などには対応していないのが一般的です。ただし、NC横中ぐりフライス盤のように、穴あけ加工とフライス加工の両方に対応した機種も存在します。加工内容が多岐にわたる場合は、中ぐり盤だけでは対応できず複数の工作機械が必要になることがあります。

小さな加工には適さない

中ぐり盤は大型の被加工物や高精度な穴あけに特化しているため、小型の部品や小さな穴の加工には効率が悪い傾向があります。小さな部品の加工にはマシニングセンタやより小型の工作機械のほうが適しています。また、設備投資コストや設置スペースの面でも小規模な加工には過剰な場合があり、加工対象のサイズや量に応じた適切な工作機械の選定が重要です。

中ぐり盤加工の注意点

中ぐり盤加工の注意点

中ぐり盤を効果的に活用するために、加工時の注意点について見ていきましょう。これらのポイントを押さえることで、より精度の高い加工結果が期待できます。

切屑を排出する

中ぐり加工では切屑(切り粉)の適切な排出が重要です。特に深い穴の加工では切屑が溜まりやすく、加工精度に悪影響を及ぼす可能性があります。切削条件の最適化や切削油の適切な供給、エアブローの活用などにより切屑の排出性を高めることが必要です。

切屑がうまく排出されないと工具の摩耗が早まったり、加工面の品質が低下したりするため、切屑管理は高精度加工の重要なポイントといえます。

ビビリの発生に注意する

中ぐり加工ではビビリ(振動による加工不良)が発生することがあります。特に主軸が長い場合や深い位置での加工時に起きやすく、加工面の粗さや寸法精度に悪影響を及ぼします。

ビビリを防ぐには適切な回転数や送り速度の設定が重要で、主軸の剛性を考慮した加工条件の選択が必要です。また、工具のオーバーハングを最小限にすることや、適切な剛性を持つ工具の選択も効果的です。

まとめ

中ぐり盤は長い歴史を持つ工作機械であり、第一次産業革命の時代から現代に至るまで、ものづくりの現場で活躍し続けています。特に穴加工の精度が作業の完成度を左右するような場面では、今も中ぐり盤を活用する必要があります。汎用性が高く便利なマシニングセンタが登場した後も、マシニングセンタでは加工できない大型の被加工材や、より高い精度が求められる穴加工において、中ぐり盤は欠かせません。

用途に応じて横中ぐり盤や立中ぐり盤、NC中ぐり盤など、適切なタイプの中ぐり盤を選ぶことで、精密な穴加工を効率よく行えます。精密機械部品の製造において、中ぐり盤の役割は今後も重要であり続けるでしょう。

大型部品の高精度加工・中ぐり加工をご検討中の方は、東京都大田区の「関鉄工所」までお気軽にご相談ください。豊富な加工実績と横中ぐり盤の設備を活かし、一点ものの製作から装置の組立・出張修理まで対応可能です。

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